2007年10月9日 日本経済新聞35面

「沖縄戦集団自決」記述復活の動き
「配慮」で修正問題再燃も

沖縄戦の集団自決の記述から「日本軍の強制」が削除された教科書検定問題は、大規模な県民大会を経て直ちに再修正の動きが始まった。
政府は「県民感情へ配慮は必要」と記述の復活を示唆し、
沖縄側は「県民の意向に耳を傾けていただき非常にありがたい」(仲井真弘多知事)と評価、一件落着の様相だ。
だが、「配慮」による政治決着は、問題再燃の火種を残す可能性がある。

全TV局生中継
再修正の直接の契機となった九月二十九日の県民大会には主催者発表で約十一万人(県警調べ約四万二千人)が集まった。
大会はPTA連合会会長のアピールで幕を開けた。
「沖縄戦の死者の怒りの声が、大和の政治家や文科省には届かないか。生きている私たちが声を一つにして訴えよう」。
大会は県議会が主導し県知事や教育長も職員や学校長の参加を求めた。
NHKと民放三社の地元テレビ全局が大会の模様を生中継し、地元の新聞二紙は号外を発行した。
福田康夫首相は今月三日の衆院本会議で「県民の思いを強く受け止め、しっかりと検討していく」と答弁。
文部科学省は「沖縄の心を重く受け止めていろいろ検討」(渡海紀三朗文科相)した結果、
教科書会社からの訂正申請を受理する形で、軍関与の記述を復活させる道が開かれた。
だが、「事実の再検討」ではなく「配慮」での記述復活は今回が二度目だ。政権が変われば繰り返す可能性がある。 
一九八一年度の教科書検定でも、「日本軍による住民虐殺」の記述が削除されたことに沖縄県民が抗議。
小川平二文部相(当時)が「次の機会で県民の気持ちに配慮して検定を行う」と国会で答弁し、
八三年度の検定で表現が復活した。

中韓に波及懸念
さらに、「配慮」は国外に広がる可能性もある。
外務省のある幹部は「中国や韓国からの抗議に政府は『教科書の内容は政治関与で変更できない』と説明してきた。
もし、『国内の抗議には配慮するのか』と両国から詰め寄られたら、返す言葉がない」と困惑する。
記述回復を求める県議会の意見書に反対した自民党県議の小渡亨氏は
「沖縄では今、日本軍を批判しないと『非県民』扱いされる。言論の自由がない戦前と同じ空気がある」と政治問題化する現状を批判する。
さらに「大事なのは配慮ではなく事実」と強調する。
現行の検定制度は戦前の国定教科書への反省から生まれた。
中央と地方の政治力対決ではなく、一部で提案のある研究機関の設置などで徹底した史実の究明をすべきだろう。
歴史問題が政治問題化することで、教科書会社が集団自決の記述そのものを削除する萎縮効果さえ招きかねない。
(那覇支局長 大久保潤)

▼「集団自決」をめぐる教科書検定問題
文部科学省は三月、来年度から使われる高校教科書の沖縄戦の集団自決について、
旧日本軍の命令の有無を巡る裁判が係争中であることや、
「すべてのケースで旧日本軍の命令があったわけではない」として、軍の強制について修正を求める検定意見を公表した。
意見を受け「日本軍が配った手りゅう弾で集団自害と殺し合いが起こった」などと軍強制を表す記述が消えた。


【写真】4万人以上が集結した県民大会の会場では「琉球独立」を求める旗も(9月29日、沖縄県宜野湾市)


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