討議資料

琉球新報 2012年4月19日

石原氏尖閣発言 沖縄の自治権を侵すな  次世代の共生へ道筋を

 東京都の石原慎太郎知事が米国のワシントンで講演し、都が尖閣諸島の購入へ向け地権者と交渉中であることを公表するとともに「東京が尖閣を守る」と宣言した。
 尖閣諸島はわが国固有の領土だ。行政区域として沖縄県石垣市に帰属することは、国際法上も歴史的経緯からしても自明だ。外務省も尖閣諸島をめぐる領土問題は存在しないとの立場を貫いている。
 こうした中、石原氏がわざわざ中国や台湾を挑発し、沖縄の頭越しに外交問題を引き起こすことは、横暴かつ無責任である。

国際法上の問題
 尖閣諸島は、明治政府が1895年に沖縄県に編入した。第2次大戦後は米国施政権下に入り、1972年に本土復帰で施政権が返還され、沖縄県石垣市となった。
 石原氏が買い取り検討を表明した魚釣島、南小島、北小島の3島は民有地で、平穏かつ安定的な維持、管理が必要として2002年から国が賃借している。
 中国と台湾は、尖閣の周辺海域で石油資源埋蔵の可能性が指摘された1970年ごろから、領有権を主張し始めたにすぎない。
 石原発言の背景には、尖閣問題が日本と中台の政治的火種としてくすぶってきた事情がある。だからと言って、石原氏が県や石垣市を飛び越えて県土を購入するなら、それは沖縄の自治権の侵害である。
 領有権をめぐって国際紛争に発展しかねない危機的状況というのであれば、それは国家主権の問題である。日本政府が中国、台湾と国際法上の問題として争い、わが国の領土であることを国際社会に認知させ解決するのが筋だ。
 中国外務省は石原発言に関連し「日本のいかなる一方的な措置も不法で無効だ」と反発している。だが、中国や台湾が尖閣諸島を実効支配したという歴史事実はなく、その主張には無理がある。
 日中台の政治・外交当局者は、冷静な対応に努めるべきだ。石原発言にあおられ、感情的対立を深めれば、それぞれのナショナリズムも刺激され、結果として東アジアの平和と安定を損なってしまう。
 野田佳彦首相は衆院予算委員会で同諸島の国有化を選択肢として検討する考えを示したが、いかにも拙速な反応だ。
 石原氏の土地購入計画について、仲井真弘多知事は「(個人所有より)何となく安定性がある」とし、中山義隆石垣市長は「好意的に受け止めている。市との共同所有が望ましい」と前向きに評価した。
 石原氏も買い取った後の土地の取り扱いについては、県や石垣市と協議したい意向を示す。

アジアの磁力として
 しかし、ここは仕切り直すべきだ。尖閣諸島を管轄する県や石垣市が主体となって活用策を検討するのが、本来あるべき姿だからだ。
 向こう10年間の沖縄振興の指針となる「沖縄21世紀ビジョン基本計画」案は、沖縄の地理的特性について「東アジアの中心に位置し、広大な排他的経済水域及び海洋資源の確保、領海・領空の保全、安全な航行の確保に貢献している」とする。加えて「中国をはじめとするアジア諸国の伸長、情報通信技術の進展とも相まって、人、物、金融、情報などアジアとの架け橋としての役割を果たしていく可能性がある」とうたう。
 アジア各国とのつながりを確保する磁力として沖縄の可能性は、東アジアの平和と安定にこそ生かしたい。尖閣の豊かな漁場、海底資源を生かすことは、新しい沖縄振興の方向とも合致する。尖閣の公有地化が望ましいのなら、地権者の理解を得て県が幅広く寄付を募り買い上げる方策もある。
 石原氏には自重を求めたい。今年は、日中国交正常化40周年の節目の年である。責任ある政治家の1人として、尖閣問題を平和的に解決し、日中台の次世代が未来志向で共存共栄していく道筋を示すことが、石原氏の務めではないか。東シナ海を名実ともに平和の海とすることにこそ、リーダーシップを発揮してほしい。

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