討議資料

沖縄タイムス2015年7月8日 論壇

戦争前夜 覚悟はあるか メディアや国民は状況の認識を 金城実

 百田尚樹氏が県内2紙報道を批判し、大きな問題になっている。彼は作家たる見識もなく、ヒステリックに「普天間基地はもともと田んぼだった」「商売になるということで人が住みだした」と、言いたい放題である。
 メディアが右に動いたのは、沖縄の日本復帰前夜の1971年論争−沖縄戦における軍名の記述から始まる。つまり、軍名の有無で、作家の曽野綾子氏が雑誌「諸君」に連載した「ある神話の背景」から始まる。家永三郎の「新日本史」高等学校教科書裁判、さらに大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判(大江・岩波裁判)で右派と左派の文芸闘争と位置付けることもできる。そして昨年まで続いた八重山群島における教科書問題がある。

 曽野氏と家永氏、大江・岩波裁判、さらに八重山教科書問題として一連の沖縄戦と平和教育問題で、台風の目が長く居座ってきた。そこに「新しい教科書をつくる会」や「自由主義歴史感研究会」が、沖縄問題を潰しにかかってきた。
 その中で、彼らは中国や朝鮮問題を持ち込んで、文芸闘争の舞台をつくっていった。2004年11月小学館発行の「SAPIO」の連載の「新ゴーマニズム宣言」でうち出された小林よしのり氏の沖縄論は、極めて象徴的である。
 その書き出し−「沖縄の県民性は特殊で、被害者意識は強い」「感情的で理路整然と話すことができず」を、沖縄人に代弁させているところが卑劣である。

 小林氏は「命どぅ宝」を捨てて、中国を守るために要塞化せよ! と主張する。翁長雄志知事の那覇市長時代、(1)オスプレイ配備撤回、(2)普天間の閉鎖・撤去、(3)県内移設断念、を求める「建白書」を安倍晋三首相に突きつけた。県代表の抗議に、日の丸を掲げて、代表団に「非国民!」「売国奴!」と罵声を浴びせた。小林氏らの主張は、これと同じヘイトスピーチそのものであった。
 しかし、日本のメディアはほとんど記事にしなかった。元毎日新聞記者の西山太吉の密約事件でもメディアは動いていない。メディアは権力になめられてきた。これが今回、沖縄の2紙に襲いかかってきたのである。

 メディア文化も1980年代までは健在だった。「大日本帝国の暴走と自爆が愛国心の名で捏造された。愛国心が劇薬であった。大声で愛国を叫ぶ人間に碌な者はいない」−雑誌「諸君」でこう断じたのが、防衛大学長・猪木正道だった。35年前と今の日本のメディア文化の比較でみると、日本は戦争前夜である。
 マスメディアも野党も国民も、この危機的状況を見過ごしてしまったら、戦争までもう後はない。その覚悟がありますか。(読谷村、彫刻家、76歳)

金城実

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