我が身は炎となりて

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我が身は炎となりて
目  次

第1部 由比忠之進、抗議の焼身憤死事件
1、 焼身自殺・あの日とその周辺
2、 虎ノ門病院に集まった人々
3、 忘れられない前夜の行動
4、 山王神社でみつめた自分の死
5、 国民の間に広がった衝撃
6、 国民の共感を呼んだ遺書
7、 各方面に衝撃を与えた死
8、 著名人が参加した追悼集会
9、 ベトナム戦争を身近にした焼身抗議
10、自ら描いた「死への設計図」

第2部 由比の生涯とエスペラント運動
1、 軍国少年として育った日々
2、 三たび移り住んだ名古屋
3、 金沢でも活躍した由比忠之進
4、 外国人に満州事変の正当性を説く
5、 自らの暗愚を憂いた由比忠之進
6、 中国の技術者留用に名乗り出る
7、 帰郷後、姿を消した由比忠之進
8、 『パーツォ』と原水爆
9、 第二次世界大戦は続いている

第3部 もう一つの遺書とベトナム反戦と沖縄・平和
1、 友人が指摘した「もう一つの遺書」
2、 アメリカ国民に衝撃を与えた報道
3、 繰り返された抗議の焼身自殺
4、 エスペランチストとベトナム戦争
5、 本土への期待と不信感の沖縄
6、 国民から死の抗議を受けた兄弟宰相
復帰40周年 沖縄問題を知る最良書が出たぞ!
好評発売中! 比嘉康文著『わが身は炎となりて』


 ことしは日本復帰40周年の節目の年です。沖縄の戦後史の出来事を発掘してきた比嘉康文(ひが こうぶん)さんが3冊目の著書『わが身は炎となりて』(新星出版刊、税込み1800円)を発行いたしました。復帰40年にふさわしい本として早くも大好評です。
また、沖縄問題で日本政府の弱腰な態度に対して死をかけて抗議した人がふたりいたことも教えてくれる本です。ぜひ、多くの方々に読んでいただき、沖縄と本土の関係を考えていただきたいです。

この本は、エスペランチストの故由比忠之進さんの評伝ですが、副題「佐藤首相に焼身抗議した由比忠之進とその時代』が示すように、個人が政治・時代とどう対峙していくかを考えさせてくれる最高の著作です。
この本を執筆した動機について比嘉康文さんは本書の「ブロローグ」で次のように述べております。

「1967年11月11日。その日は、私にとって忘れられない日となっている。自らの生命を表現手段として使うことに疑問を感じないわけではないが、わが身を挺して、この国の最高責任者の佐藤栄作首相に抗議する事件が起こった日である。しかも、私が生まれた沖縄のためでもあった。事件というのは、首相官邸前における一人の老人の焼身自殺。老人は弁理士でエスペランチストの由比忠之進さん。享年73歳。首相官邸前でガソリンをかぶり、自らの手で火をつけたのである。それは、政治資金規正法、ベトナム戦争、沖縄問題に対する佐藤首相の政治姿勢に怒った、まさに“死の抗議”だった。焼身自殺は、ベトナムの僧侶などが行っていた抗議手段だったが、この日本で発生したことに多くの国民がショックを受けた。」

「それは44年前のことだが、由比さんが自らの命を賭して告発した内容は、今も変わっていない。抗議した焼身自殺の動機は次の四つに要約できる。
1)政治資金規正法を自民党の圧力に屈し骨抜きにされたことに対する政治への不信感
2)沖縄・小笠原諸島の返還をめぐる佐藤首相の弱腰な対米追従の政治姿勢
3)ベトナム反戦運動に耳を貸さず、米国のベトナム戦争に加担する佐藤政権
4)アジアでのわが国の役割を自覚しない政治家たち」

「私(注・比嘉)は『沖縄タイムス』という地方紙の記者をしながら、戦後の出来事を検証するため資料収集と取材を続けてきた。これまで上梓した『鳥たちが村を救った』(同時代社刊)、『「沖縄独立」の系譜』(琉球新報社刊)は、その成果の一端である。 前著は1970年12月23日、沖縄県国頭(くにがみ)村の伊部岳一帯に密かに建設された在沖米海兵隊の実弾砲撃演習場が発覚し、その後はげしい撤去運動が展開され、米海兵隊が演習場を放棄されるまでの経緯をまとめた。しかし、米海兵隊が演習場を放棄した理由は、住民運動の成果ではなく、意外にも世界的な珍鳥で天然記念物のノグチゲラを守るためだった。そのことを米海兵隊の資料によって明らかにした。この本を映像化した辺土名高等学校放送部はNHKのコンクールで特別賞をいただきました。筑紫哲也氏が「ニュース23」で、東京新聞文化部の編集委員の塩野栄氏が「自著を語る」で紹介しています。

後書は、沖縄の祖国復帰運動の激しいうねりの中で、復帰ではなく『琉球国』の独立を唱えてきた6人の知識人についてまとめたものでベストセラーになった本。戦後史の中でまったく異端視され、相手にされなかった人たちである。六人はその社会的地位を失うことも恐れず、また経済的な損失もいとわず、琉球独立を叫んできた」。そうした気骨のある人たちがいるだろうか。この本はジャナーリストの亀井淳氏が雑誌で紹介しています。

『わが身は炎となりて』について「最初、沖縄の“祖国復帰運動”の中の一部として取り上げるつもりで、由比さんのご遺族、エスペランチストたちを取材し、資料集めをしてきた。その過程で、由比さんの純粋な生き方に気持ちが揺さぶられ、市民が政治と対峙してきた姿とその時代に関心を持つようになり、まとめたのが本書である。現在、由比さんを知っている方は極めて少ないだろう。由比という人物についての評価は人にとって様々だろうが、過去の歴史の闇の中に置き去りにしてしまうことは沖縄だけでなく、日本全体にとって大きな損失であるとの思いが筆者には強い。それだけに、このささやかな戦後史の旅にしばらくお付き合いいただけるならば、著者としての幸いこれに過ぎるものはない。そう思っている」と書いている。

有名人でもなく、何かを発明・発見したという偉大な人物でもない、どこの隣近所にもいる“おじいちゃん”の一人が、死をかけてまでも、国に訴えなければならなかったことは何だっただろうか。本書を読んでぜひ考えてもらいたい。そのために紹介いたしました。ぜひ、読んで下さいね!。

なお、『わが身は炎となりて』は四六判で402ページ ISBN:978‐4‐905192‐08‐4
定価:1800円 <本体1714円+税> 発行・発売は新星出版
推薦人 岩垂弘(ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員) 金城実(彫刻家)
    川満信一(詩人・元沖縄タイムス論説委員) 池原善福(元沖縄タイムス記者)
    星田淳(北海道エスペラント連盟委員) 峰芳隆(関西エスペラント連盟理事)
    相原美紗子(画家・エスペランチスト) 福地曠昭(沖縄人権協会理事長・元沖教祖委員長・沖縄戦を伝える1フィート運動の会会長) *順不同

*本書は下記において、ご注文いただけます。
新星出版 (〒900−0001 沖縄県那覇市港町2−16−1)
電話 098−866−0741 FAX098−863−4850
*みなさまのお近くの書店からも新星出版(地方小出版流通センター扱い)でご注文できます。お知り合いの皆さんにもお知らせいただきますよう、よろしくお願い致します。



2012年2月19日 朝日新聞に掲載されました
朝日新聞切り抜き




    ハノイ軍事歴史博物館に展示された『わが身は炎となりて』
     「心が救われる思いがする好著」と本土の方の便りも

 ベトナム戦争と沖縄問題に対してアメリカ追従の佐藤栄作首相の政治姿勢に抗議して1967年11月11日、首相官邸前の路上でガソリンを被って焼身抗議した73歳のエスペランチスト由比忠之進さん。その評伝をまとめたノンフィクッション『わが身は炎となりて』(比嘉康文著)がベトナムのハノイ軍事歴史博物館に展示されていることが分かった。

これは7月下旬、同博物館を訪れた関西大学の寺島俊穂教授が著者の比嘉康文(ひが こうぶん)さんに伝えてきた。寺島教授によると、同博物館には朝日新聞記者だった本多勝一氏の『戦場の村』も展示されているという。

 ベトナム戦争に抗議した焼身自殺はベトナムの僧侶だけでなく、アメリカなどのキリスト教徒、クエーカー教徒などの間でも行なわれている。民族や宗教、国に関係なく抗議の焼身自殺は広がった。その数は百人余に上る。わが身を焼き殺して抗議するというのは、これまでの世界の戦争の歴史にない出来事だった。

当時は、ベトナム戦争に反対する市民運動が盛り上がっていた。特に作家の小田実氏らが指導する「ベトナムに平和を!市民連合」のデモに主婦やサラリーマンなど幅広い層の国民が参加、全国的な反戦運動の盛り上がりがあった。

一方、沖縄の日本復帰運動も盛んで、デモではいつも「沖縄を返せ!」のシュプレーコールが行なわれていた。由比さんの抗議の焼身自殺も沖縄問題に弱腰の佐藤栄作首相に向けられていたことが遺書で分かった。

その遺書では最初に「私ごとき一介の庶民が何を訴えたとて何の効果も期待できないことは百も承知していながら、もはや我慢できなくなったのである」と述べている。そして、国民は、五人の子供もりっぱに育て、孫にも恵まれ、何ひとつ不自由なく、夫人と平和な家庭を築き、誠実に日常生活を送ってきた老人を死に追いやる政治に怒りを感じていた。由比さんのやるせない気持ちを国民は抗議の焼身自殺に読み取っていた。

毒舌評論家の異名を持つ大宅壮一氏は「サンデー時評」で「由比老人の死の純粋度」として取り上げ、「これは歴史的な重大事件であって、一老人の『死の抗議』として軽く扱うべきものではない」と強調した。狂信者めいた行動が大きらいで、死者だろうがかまわず憎まれ口をたたく“毒舌家”だが、由比さんの焼身抗議については率直に評価している。

この本の著者である比嘉康文氏は、丹念に取材し、記録を集めて『わが身は炎となりて』を上梓している。日本の戦後史の中で忘れてはならない出来事だが、比嘉康文氏がやっと全体像を明らかにしたことが高く評価されている。朝日新聞、東奥日報、東京新聞、中日新聞でも紹介されている。

本土の読者から「沖縄に基地負担をかけてきた本土の私たちは、沖縄と聞くだけで肩身の狭い思いをしてきたが、この書を読んで、わが命をかけて沖縄のために尽くした方がいたことを知り、救われる思いがした」という声が著者に届いているという。

『わが身は炎となりて』は日本の戦後史の中で、埋もれた歴史を掘り起こした貴重な著書である。ぜひ、多くの方々にすすめたい。定価1800円。出版社は新星出版(沖縄県那覇市港町2−16−1)。電話098−866−0741 (F)098−863−4850



写真説明
 ハノイ軍事歴史博物館に展示されている比嘉康文著『わが身は炎となりて』




リンク 沖縄エスペラント会