討議資料

琉球新報 2010年10月2日

外交力の低さ明らか 菅直人政権の実力  佐藤優のウチナー評論<141>

 9月25日、那覇地方検察庁は、沖縄の尖閣諸島・久場島沖合で日本の海上保安庁巡視船と衝突した中国のトロール漁船船長のセン其雄容疑者を処分保留で釈放した。100点満点の外交ゲームとして見た場合、このゲームは中国が100点、日本が0点で日本の完敗である。中国の狙いは、セン其雄船長が日本の法律で裁かれることを阻止することだった。極端なことを言うと、中国が尖閣諸島沖で中国漁船が拿捕されようが、漁船の船長や船員が長期間拘束されようが、そんなことには関心がない。尖閣諸島が日本の主権下にあるのを中国が認めることにつながりかねない、日本の法律によってトラブルが処理されることを恐れたのだ。日本政府は初め拳を高く振り上げた。しかし、中国政府の反応の激しさにおじけづいて、腰砕けになり、「検察の判断」という体裁で、セン其雄船長を逃がしたのである。
 中国側は恐らく10月いっぱいかけて少しずつ拳を降ろしていき、「尖閣諸島で日本の法律を行使するような行為を取らせない」というゲームのルールを菅政権との間で暗黙のうちに成立させようとしている。
 尖閣諸島は沖縄県の版図に属する。口先では勇ましく「尖閣諸島は日本固有の領土だ。尖閣諸島をめぐる領土問題は存在しない」と言っていても、実際に尖閣諸島に対する中国の影響力拡大を防ぐ意思も能力も菅政権が持っていないことが明らかになった。沖縄を中国の脅威から守るのだという類のことを菅政権が言っても一切信用できない。沖縄に海兵隊が駐留し抑止力が万全ならば、なぜ中国に怯えて日本の法律を犯した中国人を釈放し、海外に逃亡させてしまったのだろうか?菅政権の行っていることは支離滅裂だ。
 菅政権の外交力、国家統治能力が極めて低いことが明らかになった。沖縄としては、菅政権の無力さを最大限に活用し、沖縄の利益を追求すべきである。菅政権は中国の不当な要求を受け入れた。これに対して、米海兵隊普天間飛行場の辺野古崎周辺への移設に沖縄が反対するのは民意に基づいた正当な要求だ。「あんたたちは中国の不当な要求には耳を傾けるが、沖縄の正当な要求は力で押さえ込もうとするのか。われわれをほんとうに同胞と思っているのか」と管内閣を支える政治家と官僚に、沖縄が一丸となって圧力をかけることだ。沖縄が圧力をかければ菅政権は言うことを聞かざるを得なくなる。これが今回の尖閣沖漁船衝突事件からわれわれが引き出さなくてはならない教訓だ。
(作家・元外務省主任分析官)



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