琉球独立論討議資料

平和考 琉球新報2016年8月12日
独立は現実的選択肢 沖縄と日本、「平和」に違い 親川志奈子

 辺野古での新基地建設に女性暴行殺害事件…。沖縄では戦後71年の今も、米軍絡みの犯罪や事故、騒音、環境破壊が絶えない。基地被害が続発する中で考える平和とは何か。発足後3年を迎えた「琉球民族独立総合研究学会」の若き論客で、社会言語学者の親川志奈子さん(35)に聞いた。

 __沖縄独立論には過激なイメージがあります。
 「そう感じる人もいる。でも2年前に住民投票を行ったスコットランド、年内にも投票があるグアムなど海外の独立運動は珍しくない。独自の歴史や文化が政治に抑圧されている植民地状態を脱し、民族の自己決定権を取り戻そうとしている」

 __沖縄は植民地か。
 「19世紀の琉球処分以来、伝統の『島言葉』を話すことも、琉球の歴史を学ぶこともままならない沖縄は、自分たちの土地も基地にされ自由に使えない植民地状態にある。国際法に基づく独立のシナリオは十分に現実的だ。暴論や空論に見せているのは、沖縄の国際問題化を嫌う『宗主国』の意向も反映している」

 __近年の反基地世論の高まりをどうみますか。
 「発火点は1995年の少女暴行事件。戦後50年、本土復帰後20年余が過ぎたのに、この種の事件がまた起きたことが衝撃だったし、日米両政府の対応もひどかった。沖縄の基地は本当に必要なのか。不当に押し付けられているのでは。多くのウチナーンチュ(沖縄の人)がそう考え始めた」

 __保革相乗りの「オール沖縄」「島ぐるみ」が実現しました。
 「沖縄のイデオロギー対立は、日本政府が『基地か経済か』と偽りの二者択一を突き付けてきたことが大きい。そうした差別と抑圧の構造が20年かけて認知されたことで、『イデオロギーよりアイデンティティー』を掲げる翁長雄志県知事が登場した。沖縄は新たな一歩を踏み出した」

 __一方で反基地運動の現状は厳しい。
 「沖縄の民意を選挙でいくら示しても、政府は聞く耳を持たない。沖縄出身の芸能人や『癒やしの島』の人気ぶりを利用して沖縄との融和を装いつつ、耐用200年という新基地を辺野古につくろうとしている。『日本の沖縄』という政治的地位では未来は見えないという危機感から、独立論に関心が寄せられている」

 __運動に限界がある?
 「端的に言えば、運動自体が差別と抑圧をはらんでいる。それを可視化したのが、鳩山由紀夫元首相の『迷言』から広がった普天間飛行場の県外移設の訴えだった」

 __具体的には?
 「日本の左派運動が掲げる『基地はどこにもいらない』は正論です。でも基地の大多数は、日米安保の支持者の大多数が住む日本ではなく沖縄にある。それを棚に上げて、ウチナーンチュが県外移設を言うと『安保を容認するのか』『自分さえよければいいのか』と責めるのはフェアでない」

 __沖縄の受忍を前提とした運動になっている。
 「沖縄に基地を押し付けている日本の利益に反しない形でしか、沖縄は主張できない。それでいて日本の運動家たちは『沖縄から日本を変えろ』『もっと頑張れ』と盛んに言う。差別の自覚がないのがやるせないです」

 __沖縄の平和と日本の平和はどう違う?
 「悲惨な沖縄戦の記憶につながる米軍が今も目の前にいて、被害が続く中で平和の意味を問う。それが沖縄のリアルです。未来の戦争を想定し、憲法改正の是非を争っている日本とは次元が違う」

 __議論をかみ合わせるにはどうすればいい?
 「日本と沖縄が同じ平和を語るには、お互いに脱植民地化を進めて対等な関係を結び直す必要がある。そのための選択肢の一つが独立です」

 __かえって関係が悪化しそうな気もします。
 「日本だけを見ていては理解しにくいでしょうが、旧植民地と旧宗主国の関係は、世界的にも非常に重視されています。日本は沖縄に対する過去の不正義を直視し、負の歴史の清算に努める必要はある。その上で、互恵的な関係も対話を通じて再構築できるはずです」

 __学会の目標は。
 「『この島を二度と戦場にしない』がウチナーンチュの総意です。非武装中立の平和国家に向けた独立の在り方を具体的に研究、啓発するのが役目だと思っています」

 __独立を達成したら基地はどうしますか。
 「米軍基地も自衛隊基地も撤去します。そのとき日本はどうするでしょう。平和憲法をなし崩しにして米軍に寄り掛かり、沖縄を犠牲にして目を背けてきた日本にとって、沖縄の独立こそ平和を考える絶好の機会になるでしょう」

(聞き手は共同通信記者・山下憲一)





普天間移設問題
 沖縄県宜野湾市の中心部にある米軍普天間飛行場の移設を巡る問題。1995年の米兵による少女暴行事件を受けて翌年、日米両政府が返還で合意した。日本政府は99年に名護市辺野古への移設を閣議決定。2013年には沖縄県の仲井真弘多前知事が移設先の埋め立てを承認したが、翌年の知事選に勝利した翁長雄志知事が15年に取り消した。政府と県の対立は互いに提訴する事態に発展。今年3月にいったん和解後、7月に政府が再提訴し法廷闘争に回帰した。

おやかわ・しなこ
 1981年沖縄県生まれ。琉球大大学院博士課程に在籍、専門は消滅危機にある伝統言語の復興。米英の大学、大学院に留学後の2013年「琉球民族独立総合研究学会」設立に参加。沖縄の自己決定権の啓発団体「オキスタ107」共同代表。


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