朝日新聞-窓-論説委員室から  2009年02月20日 

琉球の世

 沖縄には「世替(ゆが)わり」という言葉がある。「アメリカ世(ゆ)」や「大和の世(やまとぬゆ)」。政治のうねりの中で翻弄され続け、苦難の歴史を刻んだ沖縄ならではの言葉だ。

 近現代の沖縄には四つの世替わりがある。1609年の薩摩侵攻、1879年に明治政府による廃藩置県で琉球王国がつぶされた琉球処分、1945年の沖縄戦と米軍統治、72年の本土復帰だ。

 今年が薩摩侵攻から400年の節目にあたるとして、「薩摩の琉球支配から400年・日本国の琉球処分130年を問う会」が那覇市で結成された。近く、歴史や芸能文化、経済、平和、人権問題などの論文をまとめた冊子を発行する。シンポジウムの開催や戦跡フィールドワークなども計画している。

 「問う会」共同代表で彫刻家の金城実さん(70)は「沖縄の独立が我々の生きている時代に実現可能とは思っていない。だが、せめて一歩を歩み出し、次の世代が進んでいく踏み台くらいはつくりたい」という。

 沖縄では厳しい歴史の節目に「自立」や「自己決定権」といった言葉が繰り返し、語られてきた。「反国家の兇区」などの著作で知られる反骨のジャーナリスト、新川明さん(77)は「問題意識を持った人たちが存在することが大事。そういう思いや問題意識が死滅しない限り、必ずいろんな形で芽は出てくる」。

 沖縄の人々が切望する「琉球の世(ぬゆ)」が到来する時まで、情念のような思いは息づき続けるのだろう。

<大矢雅弘>